君が君のことを好きでありますように:加川良さんに寄せて

2017/4/5に、日本を代表するフォーク歌手の加川良さんが亡くなりました。

若い頃、加川良さんの歌に救われたことがありました。

鬱になりやすい人の特徴は、自分を好きじゃないことが多いです。
私もその一人!(鬱の経験者は語る(^_^;)
自己評価が低いですよね?だから、少しでもあなたが、自分のことを好きに
なれますように、願って以前のエッセイを載せました。

2005/6/10に書いたエッセイです。


『君が君のことを好きでありますように』

 私は、もともと反省するのが好きだ。というか、自分の事が気に入らない。
幼い頃から、そうだった。

小学生の頃、確かに友達も多く、いつもみんなに囲まれて笑っている・・
それが私の印象だったと思う。通信簿の右側のページ・・・生活態度などの欄は、
い つも良い事が書かれていた。忘れ物が多いという以外は。

しかし、その頃の自分の何がキライって、人にすぐ合わせてしまうのだ。
八方美人という言葉はまだ知 らなかったけれど、その言葉通り、すぐに
みんなの意見に同調して合わせてしまう自分がいた。

「公園に行こうよ。」
「うん、いいね。」

でも、心の中では、家で遊びたいと思ってる。

ひどい時は、Aちゃんの悪口を言うBちゃんに同調して、別の場面では
Bちゃんの悪口を言うAちゃんに同調してしまう。いったい、私はどっち
の味方なの?自分でも解らない。そんな自分が大嫌いだった。

大学生になって、人にあわせ過ぎることはかなり減った。というより、
今度は全く逆で、人と違う事ばかり選んでするようになった。だからと
いって、そうい う自分が好きだったとは決して言えない。ただ、これまで
の自分におさらばしたくて、あがいていただけなのだから。

そこには、やっぱり大嫌いな自分がいた。自分の顔かたちに始まって、
煮え切らない性格とか、何かをやり遂げられない根性のなさとか、そんな
自分が許せな い。努力をするということは知っているので、その自分の
理想という桃源郷に向かって、思いは必死。けれど、現在の自分は大嫌い
なまま、時間が過ぎていっ た。

大学を卒業して、バイトしながらヘヴィーメタルのバンドをやっていた
頃の事。ベースの男の子が
「俺、高校生のときにすごく助けられたっていうか、感動した曲があるんだ。」
そう言って、その歌詞の一部を教えてくれた。

-君が君のことを 好きでありますように
僕が僕のことを 好きでありますように-

涙が出た。私は私のことがずっと嫌いだった。ずっとずっと許せなかった。
私は、私のことを好きになれるのだろうか。

「だれの曲なの?」
「加川良っていうフォーク歌手。」
「今も歌ってる?」
「うーん、たぶん。」

どうしても音源が聞いてみたいと言ったけれど、彼は何も持っていなかった。
そんな頃、仙台の南にある白石方面に加川良さんがライブにくるという話を
聞い た。それも、たまたまだった。以前、白石方面のライブを企画してくれた
アマチュアバンドのリーダーが電話をくれた。

「ヘヴィメタやってる冴理ちゃんには興味ないかも知んないけど、すんごい
アーティストが来るんだよ。仲間で企画したんだ~。」
「へぇ~・・誰ですか?」
「加川良っていうんだけどね。」
「行きます。行きます、行きます!」
「え?・・あ、来る?分かった。じゃ、チケット取っとくね。」

私は、すがる様な思いで、仲間と車で出かけた。小一時間で着いた会場は、
小学校の体育館のような場所。前座に、地元のフォークグループが出演。
なんだか、懐かしい雰囲気。久々にアコースティックな気分。

そして、加川さんの登場。ジャーンとギターをかき鳴らしただけで、鳥肌が
立った。これは、何なのだろう。これまで、前座に出たグループは何人もの
ギタリ ストがいて、同時に弾いていたのに、音圧というか何かが違う。
差し迫ってくる緊迫感・・・凄い。そして、声。そのパワーは、言葉にできない
ほど胸に入って きた。

ライブも後半。あの曲は、歌わないのかな。残念だなぁ・・・。がっかりして
いたら、アンコールに答えて部分的に歌ってくれた。代表的な曲を数曲、
メドレーにしてくれたようだった。

君が君のことを 好きでありますように
僕が僕のことを 好きでありますように
悲しい時にゃ 悲しみなさい
気にすることじゃ ありません
あなたの大事な 命に
関わることも あるまいし・・・

私は、私のことを好きになりたいと思った。好きな自分になるために、
努力している自分も“自分”なのだから、その自分を好きでいたい。
キライな自分から少しでも好きな自分になるために、歩いていこうと思った。

ちょっとだけ、生きてくのが楽しくなった気がした。泣きたい時は泣けば
いい、それで私の人生が終わるわけじゃあるまいしって、加川さんは私に歌
いかけてくれたもの。

私が幸せだと感じる時、私は私のことが好きでいられる時だ。嫌いな自分
を理解する事も、受け入れる事も、自分を好きでいられるための一歩かも
しれないと思えるようになった。

ふと、今日はあの頃の事を思い出した。あの曲が聞きたいな。やっぱり、
生で。今聞いたら、また違ったものを受け取るかもしれないな。

2005/6/10 by 冴理


もう一度、生で聴きたいと願っていたのに、残念ながら
加川良さんが他界してしまいました。
生の素晴らしさを知っている私です。今後は、思い立ったら、聞きに行き
たいなと、切に思います。

△加川良 with 村上律 「流行歌〜伝道」(Live 1987)